褐色時計の随筆

「男と女」


「その時計、アンティーク?」
 テーブルの上に置かれた懐中時計を眺めていると、彼女がきいてきた。
「そうだよ、作られて、もう100年近く経ってる。」
「ふ〜ん。でもさぁ、なんだか気味悪くない?誰が使っていたのかわからないものってね....何か乗り移っていそう。」
そう言って彼女は笑った。

「でもね、僕は、誰がこの時計を持っていたかは気にならない。
 この時計が何を見てきたかってことは知りたいけれど...。」

「まぁ、時計が主語なのね。 そう言われると、この時計がどんな時を過ごしてきたのか、気になるわね。」
 少しはその時計に興味を持ったのか、今は、それを手に取って見入っている。

「私が生まれるずっと前の時間をこの時計は知っているのね。」

  しばらくして彼女はふと、こう呟いた。
「私ね、ときどき不思議に思うことがあるの。時間って、いったいどこまで続くんだろうって。」

「どこから始まったかもわからないよ。」  僕はそう答えた。

「それもそうね。いったい時間ってなにものなのかしら。」
 彼女はそう言いながら、困ったように微笑んだ。

「僕も、時間の流れがわからなくなって、しまいには、自分がどこにいるのかもわからなくなって、叫びたくなることがある。
 でも、それを見ていると、なぜか、安心するんだ。」

 彼女は、黙ったまま時計を見つめている。

 静かな休日の午後、やさしく流れる今の「時間」を、その褐色時計は、かすかな音をたてながら、緩やかに、そして、しっかりと刻んでいた。


by GP7000


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