褐色時計の随筆
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「商館時計との出会い」

 

皆さんは商館時計という時計をご存じでしょうか?
商館時計とは、明治時代に日本に数多く存在していた商社(商館)が日本向けの仕様でスイスのメ−カ−に注文し、販売していた懐中時計です。

私が初めて商館時計を見たのは、ある雑誌の記事でした。
その写真の時計はシンプルな細目の書体で書かれた文字盤のロ−マ数字のインデックス、繊細で複雑な形の針、まるでたまねぎを思わせる大きな球形のリュ−ズ、それはこれまでに見た事のある懐中時計のイメ−ジとは全く違う洗練された独特の雰囲気を持っていました。

実際に現物を見てみたいと思ったものの、その記事ではこの時計そのものに関する記述は無かった為どんな懐中時計なのかさえ分からず、そのまましばらく経ってしまいました。
その後、別の雑誌でこの時計の事が触れられており初めて、商館時計という名を知りました。
日本にゆかりのある懐中時計だという事が分かり、ますますこの時計に親しみを覚えた私はどうしても現物が見たくなりました。
明治時代に日本に大量に輸入された時計なら今でもあちこちに残っているのではないのだろうか?
と思いアンティ−ク時計店を回ってみましたが、不思議な事になかなか現物を見る機会がありませんでした。

そんなある日、たまたま近所の骨董市を回っていると、とある店先で大振りのケ−スの懐中時計を見かけました。
どこの時計なんだろう。アメリカの時計かな?
骨董市では、様々な種類の古い時計があり、現在の時計では想像も出来ない様な構造が多い事と、非常に壊れやすい状態の場合があるとの話を聞いた事があるので、まず、店主の方に断って手に取って見せてもらうとケ−スには大きな傷はなく、古びた鎖まで付属しています。
壊れやすい陶製の文字盤はひび割れもなく、非常に細い銅製の針には以前に雑誌で見た商館時計の様にきれいにカットされた小さな石が飾られています。
そうかこれは商館時計なのか。
そういえば、大きめのケ−スが多いって書いてあったっけ。
中の機械はどんな状態なんだろう?
店主の方にリュ−ズを押して裏蓋を開けてもらうと、中蓋のガラスを通して見える機械は錆一つなく、輝いています。
内蓋がガラス入り、これも商館時計の特徴だったはず・・・。

それにしてもきれいだな。

まるで機械は最近作られてみたい。
でも本当に動くのかな?

リュ−ズを巻いてもらうと、大きなチラネジ付きのテンプが勢い良く動き出しました。

100年近くも前の時計がこんなにきれいな状態で残っているなんて!

欲しい、
でもこんなに状態が良いという事は高いのかな?

おそるおそる値段を聞いてみると、思ったより安い。
これなら何とか買えそう。
でも壊れたらどうしよう。

よく骨董市で買った時計はその後の修理で苦労するという話も聞くし。
やっぱりちょっと考えようかな・・・。

そう思って一度はその店を後にしたもののやはりどうしても気になってきました。
あんなに状態が良い商館時計にまた出会えるのだろうか?
いや、全く同じものはないだろう。
気が付くといつの間にかまた先程の店先に戻っていました。
修理の件もお店に持ち込んでくれれば見てくれるとの事で安心しました。
こうして今、この商館時計は私の手元にあります。

文字盤にも機械にもメ−カ−の名の入っていないこの商館時計は現在でも日差1分以内の非常に高い精度で動いています。
ある日、この時計を見ていると裏蓋の内側にいくつか刻印が入っている事に気づきました。
通常の商館時計の場合、カタカナで書かれた商館名と商館のマ−クが書かれているのですが、不思議な事にこの時計には下の方に判読できない変わった形のマ−クがあるだけです。

中央部には小さな刻印がちょうどイギリスのホ−ルマ−クの様に入っています。
このマ−クと小さな刻印の意味が知りたくていろいろ捜してみましたが、商館時計については体系的な資料がなく現在のところ不明です。
刻印の中にはイギリスのホ−ルマ−クのデ−トレタ−と非常に似たアルファベットもあるので、もしかしたら、正確な年代も特定できるかもしれません。
これらのマ−クを調べるのはこれからの課題となりそうです。
商館時計の大きく堂々した姿に明治時代の雰囲気を感じるのは私だけでしょうか?
最近、この時計のボウ(吊り)部分に付いている段は、単なる飾りではなく当時流行していた組み紐がリュ−ズに絡まるのを防ぐ為の仕様である事を知りました。
それ以来、この時計にはきれいな色の絹の組み紐を付けて使っています。
ずっと昔、明治の頃の人達がしていた様に。

さて、商館時計を手に入れた私はそこから更にもっと古い懐中時計に興味を持ちました。
商館時計よりもずっと昔から作られていたという、鍵でぜんまいを巻くリュ−ズを持たない懐中時計。
つまり鍵巻き時計です。
この時計については、また別の機会にお話します。

by HASEM


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