機械時計の動力源<ゼンマイ>
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トゥールビヨン脱進機について
   
   

















 

機械時計の動力源

<ゼンマイ>

機械式腕時計または懐中時計は、動作のための動力源としてゼンマイを使っています。
ゼンマイは機械時計の動作の基本であり、すべてのパーツの動きがこの動力を源としています。
どんなにシンプルな構造の機械でも、また、どのような複雑な機構をもった機械でもこのことには変わりありません。
テンプなどの派手な動きに比べると機械の奥深くにセットされているゼンマイは実に地味な存在でが、その役割は大変重要です。

ゼンマイは金属製の帯のような形をし、渦巻きのように巻かれているスプリング状のもので、巻き上げられることによって力が貯えられます。

ゼンマイは香箱真(こうばこしん)という棒状のパーツに巻きつけ、香箱(こうばこ)という歯車の付いた円柱形のケースに収めてから、ムーブメントに組み込まれます。

●トルクと持続時間

ゼンマイの巾と厚みはゼンマイの発生するトルクに大きく影響を及ぼします。
巾が2倍になれば2倍のトルクを発生しますが、厚みが2倍になると8倍のトルクを発生させます。
また、ゼンマイは長くなるほど力の発生する持続時間が伸びます。

駆動力がどれくらいであるかはムーブメントにとって重要な意味をもちます。
強いトルクを発生するゼンマイを使えば、少々の負荷がかかっても力強く動き続けることができます。
しかし、同時に大きな摩擦を発生させパーツの摩耗を早めます。

時計学では、「トルクは可能な限り弱くし、その力の不足分を補うために輪列摩擦を少なくする」よう調整することが理想とされています。

一般に高級時計ほど薄く長いゼンマイが使われており、長時間の持続、弱いトルクで摩擦を下げ、精度の高いパーツによって少ない力でなめらかに動くように作られています。


●ゼンマイの寿命

ゼンマイ切れというのは機械時計を長年使っているとよく経験するものです。
これは、力のかかり具合が頻繁に変化する性質上、いかんともし難い面があります。

切れる原因は様々です。主に挙げられるのは、
熱処理が均一に行われていなかったために一部だけ弾性が変化しており、そのために切れる。
錆が生じてそこから切れる。
長年の使用により金属疲労が重なって切れる。
というものがあります。
しかし、これだけでは説明できないような切れかたをする時もあり(良質の新品のゼンマイが切れてしまう)、一概に理由付けはできません。

高級時計でも切れるケースが多々ありますので、切れたからといってあまり気にしないほうがよいでしょう。
逆にゼンマイは消耗品と考え、切れても「この時計はどこか悪いのではないだろうか」などとくよくよ思い悩むことをせず、気持ちよく修理に出して交換してもらうというのが精神衛生上にも良いように思えます。

なお、一般的に厚いゼンマイほど切れやすいと言われています。

 

●形状

香箱から取り出したゼンマイはS字形をしています。
この形状をとっているのは明確な理由があります。
それは「ゼンマイ各部分が受ける力を均一にするため」です。

巻き締められたゼンマイは中心部ほど強い力で引っ張られているために、中心部から先にもとに戻ろうとします。
このために中心部と外側に力のギャップと摩擦が生じ、スムーズにほどけるにはよからぬ状態を引き起こします。
この問題を解決するためにゼンマイの外側を逆に巻いているのです。
こうしておけば外側のゼンマイも常時引っ張られるために内側のゼンマイとの力のギャップが少なくなるという訳です。

なお、ゼンマイの外側の端は逆に折り返されたような形状をしており、ひっかけるようにして香箱に止められています。



●素材

昔のゼンマイは素材として主に鋼が使われていました。
鋼は他の金属に比べて、焼き入れした後適当な焼き戻しを行うことによって弾性限界が増し、ゼンマイ素材としては最適であったのです。
しかし、現在では更にゼンマイ素材として改良された金属を使用した合金ゼンマイが使われています。
※注 (合金ゼンマイ)
ニバーフレックス、イソフレックスなどの商品名で知られるゼンマイ。
弾性が強く、非磁性。




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