褐色時計の随筆
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「金属質感フェチ」

< 壱 >

世の中にはいろいろなフェチがいる。 足フェチ、肌フェチ、髪フェチ...数え上げればキリがない。 かくいう私もそんなフェチな一人である。

あれは何時のことだったろうか。 当時、好きだった女の子にこんな話を聞かされたことがある。

「"金"ってなんでみんなあんなにありがたがるんだろうね。たいして綺麗でもないのにさ。」
「それはA君が、金の本当の美しさを知らないからだよ。」
「えっ、それってどういうこと?」
「私も前はそう思っていたんだけど、 この前、法事であるお寺に行ったのね。そのとき薄暗い境内のなかに 金で出来たいろいろな物が置いてあったの。 私それをみてびっくりしたの、みんな"ぼわーっ"と光輝いていたの。」
「・・・よく分からないんだけど。」
「つまりね、金は明かるい所でみちゃダメなの。 ほら、今って何でも光り輝いている時代じゃない。 街にはネオンが光ってて、昼でも夜でも、何処にいたって明るいじゃない。 そんな所で見ても、金は本当の姿を見せてはくれないの。」
「・・・」
「ほら、昔のことを考えてみなさいよ。 電灯なんてなくて、ろうそくやあんどんの薄暗い光しかなかったのよ。 そう、金は夕闇の中でだけ、ほほえんでくれるのよ。」

その日の夜、それまで嫌いだった、金色のムーブメント は、初めて私に微笑みかけてくれた...

考えてみれば、これが私の金属質感フェチへの第一歩だったのかもしれない。









<弐>

近頃、私のフェチ心を動かしてくれる物、それはカラフ(CHRONOGRAPH)である。

ヘアライン仕上の鋼のレバーやバネが、 ピラーウィールを中心に放射状に入りくんでいるその様。 そのあまりの美しさに、見るたびに私は卒倒しそうになる。 そう、今のマイフェチブームは鉄(鋼)なのである。

***カラフのレバーやバネの美しさ***
ひとつ,見るからに固く、頑強な鋼の存在感。
ひとつ,完全な平面に仕上げられた、上面。
ひとつ,それにともない現れる、シャープなエッジ。
ひとつ,ゆるやかな曲線を描き、完結するその形状。

すばらしいっ!!

「ひとつ,見るからに固く、頑強な鋼の存在感。」
高級な鏡面仕上げのレバーは美しい。 しかし、鋼の存在感を強調させる ヘアライン仕上げも、また別の味わいがある。 私は鋼そのものの"カツン"とくる存在感を出してくれる、 ヘアライン仕上げが大好きである。

「ひとつ,完全に平面に仕上げられた、上面。」
意外にも自然界には平面という物は存在しない。 唯一、水面だけが平面を構成することが出来るが、 僅かな力により、それは崩れてしまう。 半永久的に崩れることのない平面を作ること。 それは自然に対する人間の挑戦とも言えるのではないだろうか。 しかし、平面を作り出すことが如何に難しいことか。 それは、ヤスリで何かを削り、平面を作ろうとすれば、直ちに理解できる。 平面は人間の作り出した最高の芸術だ! 私はそう叫びたい。

「ひとつ,それにともない現れる、シャープなエッジ。」
よく言われることだが、何でも良い物は面とエッジで分かる。 作る者が情熱を失えば、面はダレ、エッジはなくなる。
高級品の一部では、エッジを鏡面仕上げの面取り加工で、 綺麗に削っている物がある。これもまた格別である。 この場合のポイントは落差である。 「上面のヘアライン仕上げ部分のマット感と、 面取り部分の鏡面仕上げの輝き。」 この落差が大きければ大きいほど、美しさは増す。

「ひとつ,ゆるやかな曲線を描き、完結するその形状。」
なぜ、昔のカラフのパーツは、このように優雅な 曲線で構成されているのであろうか。 今のカラフの様に直線で構成されていても、なんら問題はないはずだろうに。
昔の技術者にはそんなセンスも求められたのであろうか。
興味は尽きない。

by まうまう


鍵の装飾についての補足:秋本 久志

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