機械時計の動力源<ゼンマイ>
動力の伝達部分 <輪列>
輪列からエスケープへ
<ガンギ車とアンクルのかみ合い>
時計の心臓部 <テンプ>
時計の緩急
エヤリーの定理について
トゥールビヨン脱進機について
   
   

















 

時計の心臓部 <テンプの動き>

< テンプの動き >

現在のガンキ車、アンクル、テンプから成る調速機構(脱進機:エスケープメント)は、16世紀から続いている時計学が生み出した知識の集大成です。
それは豊潤な果実のように成熟し切っていて、もうこれ以上の改良はありえないのではないだろうかと思わせるほど完成しています。

さあ、いよいよ時計動作のクライマックスであるテンプの説明をする時がやってまいりました。

テンプはおおざっぱに言うと車輪のような円形の金属(天輪:てんわ)と、その中心を通って横たわっている橋のような形をしたもの(天輪のアーム)、そして円の中心の軸(天真:てんしん)にいろいろと付属品がくっついて形作られています。

※注
左下の図(テンプの断面図)は、わかりやすくするためにかなりデフォルメされています。実際の天真は、もっと短いです。


●ヒゲ

天真に固定されている「ヒゲ」(ヒゲゼンマイ)はテンプの命です。
ヒゲとは、リボンのような金属帯がゼンマイのようにきれいに巻かれているスプリング状のものです。
それは、香箱に入っているゼンマイよりも遥かに小さく、正確に形を整えられています。
ヒゲの一方は「ヒゲ玉」というC字型をしたパーツに突き刺さっており、ヒゲ玉は天真に固定されています。
ヒゲのもう一方は「ヒゲ持」というものに突き刺さっていて、ヒゲ持はテンプを支えている受(テンプ受)に固定されています。

ヒゲを外したテンプは車輪のようにくるくる廻ることができます。
そのフリー状態であるテンプにヒゲという細いスプリング状のものを取り付けることによってテンプは左右に振幅運動をするようになるのです。

このテンプの状態を明瞭にイメージできるようになると、時計理解が大きく深まります。
ヒゲとテンプの関係を表したイメージ図を用意しましたので「テンプがなぜ振幅運動するか」を考えながらご覧ください。(右図)



●テンプはヒゲによってコントロールされている

テンプはヒゲによって、いわば「半固定」されている、あるいは「やわらかく固定されている」と言うことができます。
もし仮に、テンプを右に回すような力が加われば、テンプは右に回り、ある程度回り切った状態で、ヒゲのバネのような力によって元に戻されようとします。
ヒゲの力を受けはじめたテンプは、今度はヒゲに引っ張られて左に回りはじめ、勢いあまって最初回りはじめた地点よりも少し左に回ってきます。
そうするとまたヒゲに引っ張られて結局始めの地点に戻ってくるわけです。
このようにして、テンプは右に回されると右に回った後に、元の位置に戻ってきて、左に回されると左に回った後に、元の位置に戻ってくるのです。








●アンクルからの力がテンプにどのように影響するか

ガンギ車とアンクルの項目で説明しました通り、香箱の中にあるゼンマイが発生した回転力は輪列を伝わってガンギ車に到達します。
回転力をもっているガンギ車アンクルのつめ石に衝突し、アンクル体は右方向ないし左方向に強く押されます。
このようにしてアンクルは衝撃を受け、その衝撃をテンプの振り石に伝えるのです。

※注
以降、説明をわかりやすくするために、ガンギ車の歯がアンクルの出づめ(図の右方向の石)に衝突し、アンクル体が右方向に強く押されたと仮定して話を進めます。
ガンギ車と反対方向にあるアンクルの一部(アンクルハコ)は、テンプの振り石と接触していて、アンクル体がガンギ車によって右方向に蹴られると、振り石を右方向に蹴ります。

振り石がアンクルによって右方向に蹴られると、テンプは左回転を始め、左に回り切った後に、逆にヒゲの力によって元の位置に戻ってきます。
この時、振り石は戻ってくる勢いあまって今度はアンクルハコを左に蹴りながら力を弱めます。
左に蹴られたアンクルはガンギ車の歯がかみ合っている出づめ石を外し、ガンギ車の歯を一つ進めます。

回転力をもっているガンギ車は更に回ろうとします。
しかし、アンクルは左に押されたので入りづめが降りてきてガンギ歯をさえぎります。
ガンギ歯は入りづめに衝突しアンクル体を更に左に強く押し付けます。
左に強く衝撃を受けたアンクル体の一部であるアンクルハコは振り石を左に蹴ります。

左方向に力を受けたテンプは右回転を始め、右に回り切った後に、逆にヒゲの力によって元の位置に戻ってきます。
この時、振り石は戻ってくる勢いあまって今度はアンクルハコを右に蹴りながら力を弱めます。

右に蹴られたアンクルはガンギ車の歯がかみ合っている入りづめ石を外し、ガンギ車の歯を一つ進めます。

以下、この動作が繰り返されます。


機械時計は、人間が作り出した数ある道具の中で、「生命」あるいは「有機性」あるいは、「哲学」を連想させる力を秘めた貴重な存在です。
私たち時計愛好家は、ガンギ車、アンクル、テンプが生み出す美しいリズムを眺め、時が経つことを忘れます。
この精緻なリズムを生み出すために多くの時計学の先人達が飽くなき努力を積み重ねてきたのです。
彼らに共通するものは「時計に対する愛」であったことは容易に想像できます。
これほどまでに人を引き付けて止まない「時計の魅力」とは一体、何なのでしょうか。
私たちもこの素晴らしい時計機械を考察することによって、「時計が生み出す不思議な世界」を感じ取り、楽しもうではありませんか。




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