褐色時計の随筆
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「ミステリー Mystery-」


古い時計。誰が、いつ、何のためにつくったのでしょうか。どんな人がどんな風に使っていたのでしょうか。
世界の東のはての国、そしてあなたの手元に届くまでに、 どんな歴史を辿ってきたのでしょうか。
古い時計は、不老不死の美女のようです。あなたの手のなかで美しくほほえむ、謎め いた女性のすべてを知りたくならない人など、いるでしょうか?



Case #1;女王様時計

19世紀の18Kオープンフェイス・スイスシリンダー脱進機。
Moulinie a Geneveのサイ ン。
サスペンデッド・ゴーイング・バレル(吊香箱)の鍵巻き金メッキレピーヌキャリ バー・ムーブメント。キー・ワインド/キー・セット。
ケースサイドはコインエッジ。
ローマ数字をインデックスに用いた彫刻の金文字板にブルー・スチールのムーン・ハンド。
裏蓋は王冠、バラ(イングランド国花)、アザミ(スコットランド国花)ならびに シャムロック(アイルランド国花)の浮き彫りの施された金のプレートにウエディン グ・ドレス姿のビクトリア女王のエナメル肖像を組み合わせ、さらにこれをシードパールで飾っている。美しいデザインである。

時計にはなにも書かれていないが、デザインとムーブメントのスタイルからビクトリア女王がアルバート公と結婚した1840年に、これを記念してつくられたものと思われる。

ビクトリア女王というと、晩年の権力者然とした厳しい姿や「不思議の国のアリス」 に登場する、意地悪なハートの女王のイメージが強いが、若干18歳で大帝国の支配者となったのは、こんなにも可憐な女性だったのである。

ここからはまったくの推測だが、オリジナルのケースにその名の縫い取りがあるベルギーの時計商が、ご成婚記念商品としてある程度の数量、制作したのではないだろう
か。
18Kのプレーンな婦人用時計の裏蓋に後から装飾部分のプレートを取り付けたように見えるからである。
ご成婚記念とすると、夫君のアルバート公の姿が見えないのがいかにも不自然だが、同様に制作されたアルバート公の紳士用時計があって、セットで売り出された可能性もある。
かつて時計が支配者階級の受注生産制であった時代から、一般の人でも時計を持つことが普通になっていった時代を反映していて、面白い。
時計の企画商品のはしりであろうか。
あるいは時計自体は19世紀に女王とは全く関係なく制作・販売され、装飾プレートはかなり後に制作されて、とりつけられた可能性も考えられる。
現在、協会では事実関係を捜査中である。
情報をお持ちの方は協会までご一報いただきたい。
どちらにしても、グレートブリテン島の主人になんの承諾も得ずにその肖像を用いるとは、なかなか大胆な行為といえるだろう。

by みゆき


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